『サークレット・ガーディアン』 35:Garnet 第二部開始!
『サークレット・ガーディアン』 35:Garnet です。
初めての方は目次からどうぞ。
「アレは本当に“ヒュペルボレオイ”なのかね?」
「?? どう言うことだ?」
ルオウは首を捻る。
「翼のある人間なんて聞いたことがない、亜人しか考えられないだろう?」
第二部開始です!
光襲が終わってから一月、すっかり静かになった空はどんよりと曇り、重たく世界に蓋をしていた。
日課となった墓参りを済ませ、河の水で顔を洗い、ルオウは空を見上げた。
あの不思議な稲妻を撃ち落とす球体は一つも見あたらない。
町の方角からは弔いの煙が何本も上がり、空を覆っている。
あの一方的な強襲でトーザノスの人口は半分以下に減り、トーザノスはゼルドゥーンに降伏した。
自慢のシェルターも、あの光襲の前では何の役にも立たなかった。
科学の粋を極めたシェルターの中の人々が蒸し焼きにされ、原始的な防空壕に居た自分達が助かるなんて、皮肉だ。
ユークスの親兄弟も、助かりはしなかった。
「ユークス……」
思い出して、瞼を閉じる。
ルオウが怪我人二人を運び込んだとき、ユークスと謎の人物の状態を見るなり、ヴァズ老は顔を顰めた。
どちらも手を尽くしてみるが、期待はするなと断られた。
ヴァズ老が集中治療を行っている間、何もすることがないルオウは、今と同じように滝の直ぐ傍に座ってぼんやりと鉛色の空を見上げていた。
また、失ってしまうのだろうか……。
帝国はルオウから祖国と大切な王子を奪い、そしてまた弟のように可愛がっていた命まで奪おうとしている。
二度までも、自分は何も出来なかった。こんな自分がどうして“騎士”になどなれるだろう!?
やるせなくて、怒りをどうすることも出来なくて、拳で地面を殴りつけた。
俯くと、胸のロケットがチャラリと揺れる。
ルオウは其れに手をやり、奥歯を噛み締めた。
ユークスは何を言おうとしていたのか……。
王子がどうのと言っていなかったか?
然し、今更其れを知って自分に何が出来るだろう?
せめて、ユークスだけでも助かってくれれば!
じりじりと胸が押し潰されそうな時間に堪えていると、不意に肩を叩かれた。
振り返ってみれば、険しい表情をしたヴァズ老だった。
元トーザノスの御殿医だった男だが、今の王と橇が合わずに退職し、今ではこんな町から遠く離れた滝の裏側に隠居している。
其れでも、その腕を頼って町から此の老医師を訪ねてくる者は少なくない。
数年前、殆ど行き倒れの状態だったルオウを発見して看病してくれたのもヴァズ老だった。
此の老人ならば、ユークスも何とかしてくれる筈だった。
「ヴァズ!」
弾かれたように立ち上がるが、ヴァズ老は沈痛な面持ちで首を振った。
「亜人の方は何とか一命は取り留めたが……、
ユークスは……」
「……そんな、まさか……嘘だろう!?」
無理に笑おうとするルオウに、ヴァズ老はもう一度頭を振る。
「残念じゃよ」
ルオウの引きつった笑みが凍り付いた。
胸の奥が冷めてゆく。
「……嘘だ」
「現実じゃ、受け止めなさい。顔を見てやると良い」
促されるまま、洞窟の中へと戻る。
集中治療室の前に立ち、ルオウはなかなか勇気が出なかった。
ユークスの亡骸?
今まで死体など幾つも見てきたのに、あの小さな少年の躯を見る勇気が出ない。
「御主が看取ってやらずにどうする」
ヴァズ老に諭され、のろのろとドアの取っ手に手を伸ばす。
「……」
ルオウはギクシャクとぎこちない動作で部屋の中へと足を踏み入れ、ベッドに横たわるユークスの傍に立った。
ユークスの顔はやすらかで、まるで眠っているかのようだ。死んだなんて信じられない。
「ユークス……」
頬に触れ、その冷たさに熱いものが一気に溢れ出る。
「済まない……ユークス、守ってやれずに……済まない!」
ルオウはユークスの上に掛けられた真っ白なシーツを掴み、握り締めた。
堪えようにも、涙が溢れ出てきて止まらない。
ヴァズ老は背後でそんなルオウをただ黙って見守っていた。
どれぐらいそうしていたか、やっとルオウの涙が止まると、ヴァズ老はユークスの顔の上までシーツを引き上げた。
「ユークスの母親にも伝えねばなるまいよ」
「ああ、解ってる。町の方がもう少し落ち着いたら、行ってくる」
ヴァズ老はちらりと視線をあげ、ルオウの腕に触れた。
「辛い役回りじゃがの、くじけるでないぞ」
「ああ……、それで、“ヒュペルボレオイ”の方は?」
「それなんじゃがな……」
急に眉間の皺を深くして、ヴァズ老はルオウの腕を掴み、外に出た。
滝の裏側にある洞窟は、真っ直ぐ奥まで廊下のようなトンネルが続き、その所々にまた横穴の部屋が作られている。
その昔は防空壕として利用されていたと言うが、科学の進歩と共に町の者は専ら地下シェルターを利用するようになり、ヴァズ老が住み込むまでは無人の廃墟だった。
薄暗い洞窟の中には滝の水力発電による灯りが灯っている。
ヴァズ老は灯りの下まで行き、ルオウをじっと見上げた。
「アレは本当に“ヒュペルボレオイ”なのかね?」
「?? どう言うことだ?」
ルオウは首を捻る。
「翼のある人間なんて聞いたことがない、亜人しか考えられないだろう?」
「それはそうじゃがな……、ふむ」
顎に手を当て考え込むヴァズ老に、ルオウは訳が分からないと顔を顰めた。
「何だよ、何かおかしいのか?」
「おかしいと言えばおかしいがな…、聞いて驚くでないぞ?」
「何だよ、もったいぶって」
悪いが、ユークスの死のことで頭がいっぱいで、今は他のことに思考を回している余裕がない。
「実はの、右目の流血から“ワーム・シナプス”の組織が検出された」
「何ッ!?」
“虫”を植え付けられていたというのか!?
「じゃが、無事じゃよ。瞳はな。右目は、人工眼球じゃった」
「人工眼球!?」
「左様。其れも、西の方のサイバネティクス技術跡が見られる」
西───と言えば、ダードワ大陸。
“ゼルドゥーン帝国”発祥の地。
あちら側は既にほぼ帝国によって制圧された筈だ。
あの亜人は其処から来たというのだろうか?
「組織が検出されたと言っても、既にあらかた中和された後だったようじゃ。
然し、脳の方は目覚めてみねばわからん」
「……意識が戻らなければ何とも言えないってことか…」
最悪、植物人間の可能性もある。
残った片翼も使い物にならず、切断するより術がなかった。隻腕、片翼、打撲・骨折に内蔵損傷───此方も難しい状態と言うことか。
「厄介な拾い物をしたかもしれんぞ。“帝国”の奴隷である可能性も捨て切れん。
追っ手が差し向けられていたとしたら、御主に守れるかな?」
「……」
見ず知らずの死に損ないの為に、命をはれるかだと!?
ユークスを亡くして落ち込む暇も与えては貰えないらしい。
「難しいこと言ってくれるぜ」
溜息をついて、まだ何か言いたそうな老人に気付く。
「何だよ、まだ他に何かあるのか?」
「あの御仁……性別がな、」
「性別?」
「男でもあり、女でもある」
「はぁ?」
ルオウは突飛なヴァズ老の発言に、面食らって瞬きした。
続く
36:Phosphophyliteへ
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「アレは本当に“ヒュペルボレオイ”なのかね?」
「?? どう言うことだ?」
ルオウは首を捻る。
「翼のある人間なんて聞いたことがない、亜人しか考えられないだろう?」
第二部開始です!
光襲が終わってから一月、すっかり静かになった空はどんよりと曇り、重たく世界に蓋をしていた。
日課となった墓参りを済ませ、河の水で顔を洗い、ルオウは空を見上げた。
あの不思議な稲妻を撃ち落とす球体は一つも見あたらない。
町の方角からは弔いの煙が何本も上がり、空を覆っている。
あの一方的な強襲でトーザノスの人口は半分以下に減り、トーザノスはゼルドゥーンに降伏した。
自慢のシェルターも、あの光襲の前では何の役にも立たなかった。
科学の粋を極めたシェルターの中の人々が蒸し焼きにされ、原始的な防空壕に居た自分達が助かるなんて、皮肉だ。
ユークスの親兄弟も、助かりはしなかった。
「ユークス……」
思い出して、瞼を閉じる。
ルオウが怪我人二人を運び込んだとき、ユークスと謎の人物の状態を見るなり、ヴァズ老は顔を顰めた。
どちらも手を尽くしてみるが、期待はするなと断られた。
ヴァズ老が集中治療を行っている間、何もすることがないルオウは、今と同じように滝の直ぐ傍に座ってぼんやりと鉛色の空を見上げていた。
また、失ってしまうのだろうか……。
帝国はルオウから祖国と大切な王子を奪い、そしてまた弟のように可愛がっていた命まで奪おうとしている。
二度までも、自分は何も出来なかった。こんな自分がどうして“騎士”になどなれるだろう!?
やるせなくて、怒りをどうすることも出来なくて、拳で地面を殴りつけた。
俯くと、胸のロケットがチャラリと揺れる。
ルオウは其れに手をやり、奥歯を噛み締めた。
ユークスは何を言おうとしていたのか……。
王子がどうのと言っていなかったか?
然し、今更其れを知って自分に何が出来るだろう?
せめて、ユークスだけでも助かってくれれば!
じりじりと胸が押し潰されそうな時間に堪えていると、不意に肩を叩かれた。
振り返ってみれば、険しい表情をしたヴァズ老だった。
元トーザノスの御殿医だった男だが、今の王と橇が合わずに退職し、今ではこんな町から遠く離れた滝の裏側に隠居している。
其れでも、その腕を頼って町から此の老医師を訪ねてくる者は少なくない。
数年前、殆ど行き倒れの状態だったルオウを発見して看病してくれたのもヴァズ老だった。
此の老人ならば、ユークスも何とかしてくれる筈だった。
「ヴァズ!」
弾かれたように立ち上がるが、ヴァズ老は沈痛な面持ちで首を振った。
「亜人の方は何とか一命は取り留めたが……、
ユークスは……」
「……そんな、まさか……嘘だろう!?」
無理に笑おうとするルオウに、ヴァズ老はもう一度頭を振る。
「残念じゃよ」
ルオウの引きつった笑みが凍り付いた。
胸の奥が冷めてゆく。
「……嘘だ」
「現実じゃ、受け止めなさい。顔を見てやると良い」
促されるまま、洞窟の中へと戻る。
集中治療室の前に立ち、ルオウはなかなか勇気が出なかった。
ユークスの亡骸?
今まで死体など幾つも見てきたのに、あの小さな少年の躯を見る勇気が出ない。
「御主が看取ってやらずにどうする」
ヴァズ老に諭され、のろのろとドアの取っ手に手を伸ばす。
「……」
ルオウはギクシャクとぎこちない動作で部屋の中へと足を踏み入れ、ベッドに横たわるユークスの傍に立った。
ユークスの顔はやすらかで、まるで眠っているかのようだ。死んだなんて信じられない。
「ユークス……」
頬に触れ、その冷たさに熱いものが一気に溢れ出る。
「済まない……ユークス、守ってやれずに……済まない!」
ルオウはユークスの上に掛けられた真っ白なシーツを掴み、握り締めた。
堪えようにも、涙が溢れ出てきて止まらない。
ヴァズ老は背後でそんなルオウをただ黙って見守っていた。
どれぐらいそうしていたか、やっとルオウの涙が止まると、ヴァズ老はユークスの顔の上までシーツを引き上げた。
「ユークスの母親にも伝えねばなるまいよ」
「ああ、解ってる。町の方がもう少し落ち着いたら、行ってくる」
ヴァズ老はちらりと視線をあげ、ルオウの腕に触れた。
「辛い役回りじゃがの、くじけるでないぞ」
「ああ……、それで、“ヒュペルボレオイ”の方は?」
「それなんじゃがな……」
急に眉間の皺を深くして、ヴァズ老はルオウの腕を掴み、外に出た。
滝の裏側にある洞窟は、真っ直ぐ奥まで廊下のようなトンネルが続き、その所々にまた横穴の部屋が作られている。
その昔は防空壕として利用されていたと言うが、科学の進歩と共に町の者は専ら地下シェルターを利用するようになり、ヴァズ老が住み込むまでは無人の廃墟だった。
薄暗い洞窟の中には滝の水力発電による灯りが灯っている。
ヴァズ老は灯りの下まで行き、ルオウをじっと見上げた。
「アレは本当に“ヒュペルボレオイ”なのかね?」
「?? どう言うことだ?」
ルオウは首を捻る。
「翼のある人間なんて聞いたことがない、亜人しか考えられないだろう?」
「それはそうじゃがな……、ふむ」
顎に手を当て考え込むヴァズ老に、ルオウは訳が分からないと顔を顰めた。
「何だよ、何かおかしいのか?」
「おかしいと言えばおかしいがな…、聞いて驚くでないぞ?」
「何だよ、もったいぶって」
悪いが、ユークスの死のことで頭がいっぱいで、今は他のことに思考を回している余裕がない。
「実はの、右目の流血から“ワーム・シナプス”の組織が検出された」
「何ッ!?」
“虫”を植え付けられていたというのか!?
「じゃが、無事じゃよ。瞳はな。右目は、人工眼球じゃった」
「人工眼球!?」
「左様。其れも、西の方のサイバネティクス技術跡が見られる」
西───と言えば、ダードワ大陸。
“ゼルドゥーン帝国”発祥の地。
あちら側は既にほぼ帝国によって制圧された筈だ。
あの亜人は其処から来たというのだろうか?
「組織が検出されたと言っても、既にあらかた中和された後だったようじゃ。
然し、脳の方は目覚めてみねばわからん」
「……意識が戻らなければ何とも言えないってことか…」
最悪、植物人間の可能性もある。
残った片翼も使い物にならず、切断するより術がなかった。隻腕、片翼、打撲・骨折に内蔵損傷───此方も難しい状態と言うことか。
「厄介な拾い物をしたかもしれんぞ。“帝国”の奴隷である可能性も捨て切れん。
追っ手が差し向けられていたとしたら、御主に守れるかな?」
「……」
見ず知らずの死に損ないの為に、命をはれるかだと!?
ユークスを亡くして落ち込む暇も与えては貰えないらしい。
「難しいこと言ってくれるぜ」
溜息をついて、まだ何か言いたそうな老人に気付く。
「何だよ、まだ他に何かあるのか?」
「あの御仁……性別がな、」
「性別?」
「男でもあり、女でもある」
「はぁ?」
ルオウは突飛なヴァズ老の発言に、面食らって瞬きした。
続く
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